以下は先生へのインタビューをまとめたものです。
(ゼ)まずはマクロ経済学について聞いていきたいと思います。マクロ経済学の魅力はなんだと思いますか?
自分が重要なことをやってるっていう確信が持てるって言うのはあるんじゃないかな。自分の研究に何千万の生活が左右されるとまでは言わないけど、潜在的にはそれぐらいのインパクトのあることをやっているわけで、そこじゃないかなあ。ユーザーの顔が見えるっていう点ではあまり良くないんだけど。
(ゼ)「今ここがアツい!」みたいな分野はありますか?
今はニューケインジアンだと思うけど、いや、次の流行は物価ダイナミクス(注:一橋のプロジェクトでもある。)じゃない?すごいよ。あの、ミクロのデータを使って物価の実証やるっていう。
(ゼ)一橋オンリーではないのですか?
日本はね。でも、アメリカではすごいし、ヨーロッパはInflation
Persistence Networkってのがあって(注:現在も、Wage Dynamics
Networkとして継続)、そこでずーっとやってたし。だから、最近のjob market
candidate(注:アメリカの経済学博士課程卒業予定で、就職活動をしている人のこと)の一番いい人とかの論文はやっぱそれだよね。コーヒー豆が現地で売られて、中間業者を通って、最終的にスーパーで売られるまでに値段がどう変わっていくかとか。それで、為替レートの影響がどこでどのくらいでるかとか。そういうのが、今の最先端ですなあ。(一橋を指して)ここまでそろったデータってのはアメリカでもなかなかないと思うんで。
(ゼ)今後のマクロ経済学はどういうトレンドをもって進んでいくのでしょうか?
難しいねぇ。もっと人間の認識の限界みたいなものをうまいこと取り入れた方向に進んでいくんじゃないかと、前からそう思ってて進んでないんだけど(笑)
(ゼ)それは、心理学とか行動経済学といったようなものですか?
ただ、あまりアドホック(注:とってつけたようなその場しのぎの感じ)にはならない感じでできるといいよね。例えば阿部先生(注:一橋大学経済研究所の阿部修人先生)の研究に出てくるんだけど、価格硬直性(注:企業はスムーズに価格調整を行わないという、ニューケインジアン経済学での最も重要な想定。)の実態を調べてみると、実はスーパーとかちょこちょこ価格を変えてて、こんなんメニューコスト(注:価格改定にはメニューを書き換えるコストがかかるという比喩からくる価格改定コストのこと。)なんか嘘だと思えるような動きをするんだけど、その割には大きな局面で大胆に価格を変えるとか、そういうのはあまりなかったりするわけ。それから家計の資産選択のデータとか見てみると、だいたいはみんな株も投資信託も持ってなくてせいぜい定期預金くらいまでしか持ってない。で、理由は?って煎じ詰めていくと、預金以外の金融資産って「なんだかよく分からない、面倒くさい、大変」ってことになる。そういうのに、うまく踏み込んでいければすごい進展だと思うのですが。
(ゼ)現在の先生ご自身の研究についてですが、
経済成長から貨幣的マクロへ変わっていったというのはありますか?
う〜ん、本当は貨幣乗数(注:1単位のベースマネーを供給したとき、それが何倍のマネーサプライになるかという指標。平成不況下で大幅に落ち込んだ。)のこととか、流動性(ある資産を持っていて、他の資産に変えたいときそれをどれぐらい早くできるか、という概念。例えば、普通預金は定期預金より流動性が高い。)の話とかをやりたいんだけどね。少しずつやってるけど、難しいですね。
(ゼ)自分で研究を決められるのは良いですね。
基本的には、大学の先生ってのは自分で自分の研究を決められるってのが最大のメリットだと思います。やっぱ、組織的な制約は緩いですね。締め切りのある仕事もあるけど、自分の一番コアの研究については、自分が納得できることが締め切りみたいなものだから。
(ゼ)関連して大学のことについてです。日本の大学教育についてはどう思われますか?
もっとキャンパスにお金をかけてキャンパスをきれいにした方がいいんじゃないかな。一橋は入り口のところがすごくきれいであれは良いと思います。でもアメリカとかだと、自然ときれいなとこ散歩して思索していると新しいアイデアが湧くような、あるいはコーヒー飲みながら何時間も談義してたいような場所って必ずあるんだよね。そういうとこってあんまりないよね。
(ゼ)教育の内容については?
どうなんだろう。アメリカの大学ってのは基本的に日本の教養課程みたいなものだと私は理解しているので、色んなことを学ぶんだけど、そんなに深くまではいかない。よっぽどアドバンスドなコースを取らない限りね。ジェフ(注:塩路ゼミに来ているアメリカからの留学生)なんかはそういうのをとってきてるからちょっと違うんだけど。でも、やっぱり学部教育のレベルは一橋は高いよ。学部でみんな数学やってて。アメリカの基礎レベルの教科書なんてどうやって数式避けるかっていう教科書が多いでしょ。
(ゼ)ただ、そんなに経済学部生も数学ができるわけでは…。
でも、使うことを拒否したりはしないでしょ。授業で合成関数の微分が出たらブーイングがでて先生が立ち往生しちゃうようなことはない。アメリカとかだと、非難の口笛が教室のあちこちから(笑)。地方の大学で、足し算引き算掛け算くらいは許すけど、割り算ってのはちょっと…、ってな話すら聞いたことがあるので。まあ、日本もそうなってるのかもしれないけど、一橋は違うよね。
(ゼ)外から見た一橋大学の雰囲気ってどうなんでしょうか?(注:先生は昨年、一橋へ移って来られました。)
まあ、どの大学も特色があるんだけど、一橋は今の大学としては学生同士のつながりは強いと思う。前の大学ではゼミ合宿ということもあんまりなかったし。
(ゼ)現在の大学生って先生にはどのように思われますか?
真面目!真面目です。今の若い人ほんと真面目だなあと思う。
(ゼ)では最後に入ゼミを考えている人に対してです。なにかメッセージはありますか?
難しいねえ。来年のスローガンはこの前決めたんだけど、「粘り強く」。あきらめない。今できなくても良い。できる人だけに門戸を開くつもりは毛頭ないんだけど、できるようになりたくてがんばりたいっていう人であれば良いかなと、教え甲斐があるかなと。今年はとりあえずそれを標語にしてみようかなと。
(ゼ)ゼミへのコミットメントは重視しますか?
それはそうだね。コミットメントまったくしないっていうのは無しで。
まず最低限、ゼミの最中は100%コミットしてもらえわないといけないし、インゼミとか考えると、ゼミの時はゼミのことやるけど、それ以外はパッと切り替わるのが良いかというとそうでもないのか。心理的に、私はこのゼミに属してるんだという気持ちを持ってもらわないと。困るでしょう?インゼミの準備とかしてても。
(ゼ)今年一年やってきて、一橋のゼミというシステムには慣れましたか?
いやあ、まだサンプル1つなんで(笑)これがrepresentativeなサンプルだと言ってくれればかなり分かったなと。
(ゼ)それは、なかなか…、だいぶバイアスが(笑)
そもそも副ゼミが多ですし(注:現在、主ゼミ2名、副ゼミ3名、留学生1名)
うん、でも副ゼミは歓迎だよ。副ゼミをやりたいってことはすごく学問に燃えてるんだからそういう人たちが来てくれると刺激になると思います。例えば計量を学んでるんだけど、これをなんに使うのか知りたいとか、重要だよね。そういう明確なモチベーションを持ってくれるのは大事だと思います。
------普段の生活のことも聞いてみました。
(ゼ)普段の先生の生活ってどんな感じなんですか?
本当はもっと研究室でじっとしてたいんだけど、今学期(注:07年度冬学期)に関してはそれはできてないです。来年度は、もうちょっと改善されると思いますが。
(ゼ)一日のうちで、どのぐらいが研究で、どのぐらいが教育で、とかありますか?
う〜ん、分からないなあ。教育と研究で半々くらいかなぁ。あの加藤さんの授業(注:2007年度冬学期金融経済論Iのこと。加藤涼さんの『現代マクロ経済学講義』という本を使っているため)の準備が大変でさあ、1コマなのに何故?っていう思いが…。前期の中級マクロが大変なのは、あれはよく分かるんだよな。2コマだし、コアコースだし。受講生もたくさんいるから、あれはよく分かるんですが。
(ゼ)それでも、授業の面倒見は塩路先生はすごく良い方だと思います。
でも、ほらもっと良い人いるでしょ。毎週宿題出したりとか。本当だったら、このことについてどう喋ろうって、もっと詰めてから教壇に立ちたいんだけどね。同じことでもこう言ったら伝わるけどこう言ったら伝わらないってあるわけじゃん。それを自分で何回も何回もシミュレーションすれば、こう言った方が良いってあると思うんだけどね。以前は同じ授業を毎年毎年やってたから、こう喋ればうまく伝わるってのがあるんだけど、ここでは何しろ中級マクロも金融経済論も初めてなものですから。
(ゼ)お昼はどうしてるんですか?
お昼は、私の中でデフォルトは生協なの。だけど、ほとんどそのデフォルトは生かされてなくて、だいたい金融経済論のあるときは無理でしょ。あの〜、プロジェクターをセットしなくてはいけないから。デフォルトは12時55分以降に生協で食事なんだけど、それができるのは月曜だけで、たまに金曜。水曜日、木曜日は今年は学外に行ってるから。
(ゼ)最後にありきたりな質問ですが趣味はなんですか?
あ〜、本当はサッカー見ることなんだけど。最近あんまり見られない。この間出張行ったとき、夜中の12時にサッカーのニュースやってて、まだやってるじゃないかって。あの、加藤だっけ?まだやってるじゃないか!って。
(ゼ)加藤浩次ですね。スーパーサッカー。
(ちなみに、07年度の夏の納会では先生と一緒にサッカーの試合を観に行きました。)
バルセロナVSマリノス@日産スタジアム
以上。
07年12月、国立某所にて。
聞き手 :ゼミテン一同